あとりえ*Forétが描く、思いだすと懐かしくて 少しだけほろ苦い、胸がキュンとなるお話しの世界をお楽しみください。
薄明りの中を近づいて行くと、今はもう立ち上がる事も億劫なほどに年老いたネコが独り横たわっていました。かつては天井を駆け、獲物を捕ってくると、どうだ凄いだろうと言わんばかりに咥え、家人を驚かせた事もありましたが、今は物置小屋の片隅で時折入り口の方へ視線を向ける以外はずっと目を閉じておりました。「気分はどう?」「何か食べなきゃ」ハツカネズミが話しかけます。一瞬、キッと目を見開きネズミを見据えましたが、すぐに「獲物を捕れなくなったらお終いだ」力なくフッと笑って目を瞑りました。ネズミは水の入った器をそっとネコの前に置き、静かに帰ってゆきました。
「はいはい只今」…店主は、桃色のウサギの人形を丁寧に包んで箱に詰めました。そのウサギはずっと「寂しい顔すぎる」と何年も売れずに残っていたのでした。ところが何という事でしょう。店にふらっと入って来た老婦人が真っ先に手に取って言ったのです。「まあ!なんて可愛いんでしょう!」隣の老紳士をにっこり見上げると、彼もまた目を細め、うんうんと笑顔で頷きました。「孫にそっくり…別れ際はいつもこんな顔で帰っていったものですわ。あの子がもうじきお嫁さんだなんて」「あらあらそれは、お幸せですねぇ」包みを受け取ると、夫婦は人形を宝物のように抱えて店を出てゆきました。
晴れた暖かい冬の日、ネズミのお婆さんは薄手のショールに膝掛けを持って公園へ出かけました。ベンチに腰掛けると大切に抱えて持ってきた箱の蓋を開き、中から何か紙のような物を取り出しました。…それは手紙。
今はもういない夫が、若い頃にくれた形見の手紙が何通も箱の中に入っていました。その中から一通を取り出して、懐かしそうに読むと、時々涙を流すこともありました。けれど、最後は微笑んで箱の蓋を閉じます。それはまるで、愛しい恋人との別れのようでした。
今日もお婆さんは大事に箱を抱えてベンチに向かいます。あの頃のキラキラ輝く思い出に出逢う為に…。
種を撒き、土掛けをし、水をたっぷりやって、芽を間引いたり、肥料をやったり、草を刈ったり、倒れないよう支柱をたててやったり。畑に水を運んだり、重いクワで耕したり、腰を屈めてシートを敷いたり、炎天下や暴風の中の作業もあります。畑の仕事は、力も手間も根気もいります。愛情が無いと、作物はすくすくと大きくなりません。そうして、やがて実が生り、収穫を迎えると大変だった事は忘れ、ただただ嬉しいのでした。「さぁ、帰ろうか」家では奥さんが夕飯の支度をして待っているはずです。西の空が真っ赤でした。ブタのお父さんは、腰をのばし汗を拭いて、神様に感謝しました。
タヌキの子は友達の家からの帰りに、綺麗な赤い花を見つけました。それは、お母さんが大好きな花でした。「お母さんに摘んで帰ってあげよう!」心の中で「一本だけください」と、謝ってから持って帰りました。
ところが、お母さんは喜ぶどころか少し恐い顔になり、「ひとりで人里に行ってはいけないよ。もし見つかったら大変な事になってしまうからね」と、キッとした目で、諭すように叱ると、今度はぎゅっと抱きしめて「ありがとう、お母さんが大好きな花だったんだよね?」
優しい顔になって言いました。